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近著論文の解説

Tumor-specific inter-endothelial adhesion mediated by FLRT2 facilitates cancer aggressiveness.


Ando T, Tai-Nagara I, Sugiura Y, Kusumoto D, Okabayashi K, Kido Y, Sato K, Saya H, Navankasattusas S, Li DY, Suematsu M, Kitagawa Y, Seiradake E, Yamagishi S, Kubota Y.

論文サマリー

がんの進行、転移には、がん内部への血管新生が必要とされます。そのため、血管新生とめる薬剤によって、がんの進行、転移は抑えられると考えられ、そうした薬剤が既に臨床のがん治療の現場において用いられています。特に2004年に米国FDA、2007年に厚労省によって認可された、血管内皮成長因子(VEGF)の阻害剤は、大腸がん、肺がんなど多くのがんで有意な治療効果が認められています。その一方、VEGF阻害剤はがんの転移に関しては、抑える効果が不十分なケースもみられ、そのメカニズムについて世界的に解析が進められるとともに、がん転移を効率的に抑える新たな分子標的が探索されてきました。

本研究ではまず、著者のチームが長らく注目してきた神経ガイダンス因子FLRT2について、多数のヒト大腸がんサンプルでの発現を解析しました。予想外の結果として、FLRT2はがんの血管、特に進行がんの血管で強く発現し、その発現量は患者予後と逆相関していることを見出しました。これは病理サンプルにおけるFLRT2の発現が、患者予後を予測する因子として有用であることを示しています。

次に血管内皮特異的にFLRT2遺伝子を欠損したマウスを作成し、がんモデルを適用したところ、皮膚に発生したがん(原発巣)において、血管内部へのがん細胞の侵入が顕著に抑えられ、その結果、肺や肝臓への遠隔転移が顕著に減少することを見出しました(図1)。続いてそのメカニズム、つまり『血管におけるFLRT2欠損が何故がん転移を減少させるのか?』についてさまざまなアプローチで検討しました。その結果、FLRT2はがんの血管に特有な隙間の多い(幼弱な)血管に強く発現し、その血管内皮細胞同士をつなぎ留め(血管内皮細胞間のアンカーとして)、がん特有な血管構造を維持していることを見出しました。そもそもがん細胞は、幼弱な血管の隙間を通して血管内に侵入し、血流に乗って転移するので、FLRT2が無くなることにより幼弱な血管が消滅し、転移ができなくなります(図2)。

さらには、FLRT2欠損マウスのがんでは隙間の無い、安定した血管のみ残るため、がん深部まで血流を運ぶことができるようになるため、免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体の効果が顕著に増強されることもわかりました。

本研究成果は、血管ががん細胞を転移させるユニークな仕組みを解明したものであり、ヒトでFLRT2の働きを特異的に抑えられる薬剤が開発されれば、VEGF阻害剤では不十分であった、がん転移を効率的に抑える分子標的薬となることが期待されます。さらには、免疫チェックポイント阻害剤をがんの奥まで深達させ、その効果を最大限にさせるための、「地ならし」的な併用療法への応用も期待されます。

図1. FLRT2欠損マウスではがんの血管内侵入が抑えられ、がん転移が減少する。
図1. FLRT2欠損マウスではがんの血管内侵入が抑えられ、がん転移が減少する。

通常のマウスの原発巣(皮膚)ではがん細胞が旺盛に血管内に侵入する(白抜き矢頭)が、FLRT2欠損マウスではほぼ見られない。通常のマウスではがん細胞が肺に大量に転移(白矢頭)するが、FLRT2欠損マウスでは著明に減少する。

(図2, 結果、AREG中和抗体、Erlotinibともに嚢胞状のリンパ管形成を正常レベルにまで劇的に抑制した)
図2 . FLRT欠損によりがん転移が抑えられる仕組み

通常、がんによって新生する血管は、「急ごしらえ」なため幼弱であり隙間が多い。その隙間をぬってがん細胞は血管内に入り込み、血流に乗って転移する。この隙間の多い血管の細胞同士をつなぎ留め、構造を維持しているのがFLRT2である。このためFLRT2を欠損させることによって、隙間の無い(安定した)血管のみが残ることになり、がん細胞は転移ができない。

著者コメント

本研究は、筆頭著者の安藤知史くん(大学院博士課程:外科学教室より出向)が、その外科スピリットを遺憾無く発揮し、夜な夜な「なんだよこのXXXX野郎!」などの放送禁止用語を実験サンプル(マウス)に対して乱発しつつも、アイデアから研究の実施まで、ほとんどの部分を遂行しました。安藤くんは顔もキャラも濃いですが、研究のセンス、スキルは切れ味抜群すっきり系、今後のさらなる活躍が期待されます。近々、米国のがんのラボへの留学も決まっており、将来が楽しみです。

また、本研究成果は、その他多くの研究者の方々の多大なるご協力なしでは遂行できなかったものであり、この場を借りて心より感謝申し上げます。血管生物の先生方におかれましては今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

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