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近著論文の解説
ダウン症関連因子DSCR-1の欠損によって高コレステロール血症は病的血管新生を介して角膜混濁を増悪させる
村松昌・中川卓・大澤毅・豊野哲也・植村昭嘉・木戸屋浩康・高倉伸幸・臼井智彦・サンドラリエヨン・南敬
対象論文
- Loss of Down Syndrome Critical Region-1 mediated-hypercholesterolemia accelerates corneal opacity via pathological neovessel formation
- Masashi Muramatsu*, Suguru Nakagawa*, Tsuyoshi Osawa*, Tetsuya Toyono, Akiyoshi Uemura, Hiroyasu Kidoya, Nobuyuki Takakura, Tomohiko Usui, Sandra Ryeom, Takashi Minami#
*: equally contributed
#: corresponding author - Arteriosclerosis, Thrombosis, and Vascular Biology. 13 Aug 2020
DOI: 10.1161/ATVBAHA.120.315003.
Profile著者プロフィール
熊本大学生命資源研究支援センター/大学院生命科学研究部 分子血管制御学
東京大学医学部附属病院 眼科
東京大学 先端科学技術研究センター ニュートリオミクス・腫瘍学分野
(Corresponding)
論文サマリー
ダウン症は早期アルツハイマーや小児白血病の高い罹患率を示す一方、固形がんに強い抵抗性を示すことが知られています。また、動脈硬化・高血圧などの血管病にも罹りにくいことが想定されています。血管病の発症や悪化には血管内皮細胞の活性化が深く関与することから、我々はその活性化シグナルに着目し、転写因子 NFATが重要な役割を示すことを明らかにしてきました。特に VEGFやトロンビンで活性化された血管内皮細胞では NFATの標的であるダウン症関連因子 DSCR-1が最も強く発現誘導され、 NFATの核内移行を阻害する負のフィードバック調節因子として機能することを見出してきました。この DSCR-1による NFATシグナル調節を介した内皮細胞活性化の制御が、ダウン症における血管病態の進展抑制に繋がることが考えられますが、その原因となる詳細な候補遺伝子や分子機構については明らかにされていませんでした。そこで我々は高コレステロール血症における DSCR-1の機能解析のために ApoE-/-マウスと DSCR-1-/-マウスおよび、 ApoE と Dscr-1のダブルノックアウト( Dscr-1-/- & ApoE-/-)マウスを作製し、これらにおいて加齢に伴う表現型解析を病的血管新生の観点から行いました。
角膜は我々の体にある数少ない無血管組織の一つであり、それ故に透明性を保持しています。しかし、高コレステロール血症などの脂質沈着が誘導されやすい病態では、末梢組織における酸化脂質の上昇によって炎症を伴う病的血管新生が生じ、角膜混濁が引き起こされます。本研究で我々は、 ApoE および Dscr-1-/- & ApoE-/-マウスにおいて加齢に伴って高コレステロール血症の悪化や角膜混濁が生じることを見出しました(図1)。
また、 Dscr-1-/-マウスおよび Dscr-1-/- & ApoE-/-マウス、内皮特異的 Dscr-1安定発現マウスを用いた網羅的遺伝子発現解析を介し、角膜での炎症性細胞の浸潤や内皮活性化遺伝子の発現上昇の分子機構を見出し、特に抗 Sdf-1中和抗体の投与によって NFAT依存性の角膜病的血管新生が有意に抑制されることを示しました(図2)。
角膜病変部に炎症性細胞が浸潤していたことから、末梢組織での酸化 LDLの増加が血管新生因子を誘導している可能性を考え、炎症性細胞からの VEGF分泌を解析したところ、酸化 LDLによって炎症性細胞からの VEGF分泌が亢進し、その作用は Dscr-1の欠損で有意に増強されることを明らかにしました。以上の結果から、 DSCR-1が NFATによる遺伝子発現を制御し、脂質代謝異常による肝臓の炎症や慢性的な角膜の血管新生における重要な保護因子として機能することや、高コレステロール血症で誘導される角膜混濁における病的血管新生の制御機構を明らかにすることができました(図3)。
活用したデータベースにかかわるキーワード
血管新生
NFAT
DSCR-1
角膜混濁