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近著論文の解説

RhoJ integrates attractive and repulsive cues in directional migration of endothelial cells


福嶋葉子 植村明嘉

対象論文

  • RhoJ integrates attractive and repulsive cues in directional migration of endothelial cells

  • Fukushima Y, Nishiyama K, Kataoka H, Fruttiger M, Fukuhara S, Nishida K, Mochizuki N, Kurihara H, Nishikawa SI, Uemura A.

  • THE EMBO JOURNAL. 2020 June 17.
    DOI: 10.15252/embj.2019102930.

Profile著者プロフィール

福嶋 葉子

大阪大学大学院医学系研究科 眼免疫再生医学共同研究講座 特任講師

植村 明嘉

名古屋市立大学大学院医学研究科 視覚科学 客員教授

国立循環器病研究センター研究所 細胞生物学部 客員部長

愛媛大学 プロテオサイエンスセンター 客員教授

論文サマリー

血管は、全身の隅々まで張り巡らされている器官です。血管が精巧なネットワーク構造を形成するためには、個々の内皮細胞が協調して正確な方向に移動することが重要です。血管新生では、血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor: VEGF)は血管伸長を促進する一方、セマフォリン3E (Sema3E)は血管伸長を抑制します。一般に、細胞は周囲の環境を察知して移動方向を決定していることが知られていますが、内皮細胞がVEGFとSema3Eのように相反するシグナルを同時に受けたときに、どのように動く方向を決めているのかはわかっていませんでした。私たちは、血管に強く発現する低分子量Gタンパク質RhoJに注目して、内皮細胞が相反するシグナルを統合するしくみを明らかにすることを試みました。

はじめに、VEGFとSema3Eに対する内皮細胞の動態を解析したところ、内皮細胞はVEGFに近づく方向に移動する一方で、Sema3Eから遠ざかる向きに移動することがわかりました。RhoJ発現を抑制すると、細胞の運動能は抑制されないにもかかわらず、VEGFとSema3Eに対する走化性は失われました。VEGFはVEGFR2受容体に、Sema3EはPlexinD1受容体にそれぞれ結合します。これらの受容体とRhoJの相互関係を調べたところ、GTP結合型(活性型)RhoJはPlexinD1と、GDP結合型(不活性型)RhoJはVEGFR2と結合することがわかりました。

定常状態の内皮細胞では、RhoJはGTP結合型で存在しています。Sema3EがPlexinD1受容体に結合すると、GTP結合型RhoJがPlexinD1から解離してアクチン脱重合を促進する結果、内皮細胞は収縮しました。また、PlexinD1と結合しているRhoJは、PlexinD1−VEGFR2受容体複合体の形成を促進し、VEGFR2のトランスリン酸化を介して後向き運動を制御していました。一方、VEGF刺激を受けた内皮細胞では、RhoJがVEGFR2-PlexinD1-Neuropilin1受容体複合体の形成を促進し、細胞内シグナル伝達の活性時間を調節することで前向き運動を制御していました。VEGF刺激から一定時間が過ぎると、GDP結合型に転換したRhoJがVEGFR2の分解を促進し、シグナル伝達が終了することもわかりました。これらの結果から、Sema3EとVEGFに誘導される内皮細胞の後向き運動と前向き運動のいずれにもRhoJが必要であることが証明されました(図1)。

最後に、生体の血管新生におけるRhoJの役割について解析しました。RhoJを欠失させた網膜では、発生期の血管伸長に遅延が観察され、虚血網膜症モデルで誘導される異常新生血管は著明に抑制されました。RhoJは網膜だけでなく癌の血管新生にも重要であることが既に報告されており、異常血管新生を抑制する新たな治療標的になることが期待されます。

図1

著者コメント

本研究は、神戸大学大学院医学研究科血管生物学分野(植村明嘉 特命助教, 当時)で主に進めてきました。私が大学院に入った当初は、植村先生は理化学研究所発生・再生科学総合センター幹細胞研究グループ(西川伸一グループディレクター)に在籍しておられ、内皮細胞に発現する低分子量Gタンパク質としてRhoJを同定されていました。そこから、機能解析への取り組みが始まりました。長い時間がかかりましたが、RhoJは活性状態によって対立軸にあるVEGFとSema3Eシグナルのいずれにも関わるユニークな分子であるということを突きとめることができました。

植村先生には終始にわたって御指導・御助言を頂きました。また、研究をすすめるにあたり、国立循環器病センターの望月先生、日本医科大学の福原先生にはin vitro実験を基礎から教えていただき、熊本大学の西山先生にはex vivo実験で御協力いただきました。多くの先生に御支援いただき、論文として発表することができました。共著者の先生方に心よりお礼申し上げます。

図 1

活用したデータベースにかかわるキーワード

網膜血管新生
VEGFシグナル
Sema3Eシグナル
RhoJ

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