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近著論文の解説
Peri-arterial specification of vascular mural cells from naïve mesenchyme requires Notch signaling.
安藤 康史・Christer Betsholtz
Uppsala大学
対象論文
- Peri-arterial specification of vascular mural cells from naïve mesenchyme requires Notch signaling.
- Ando K, Wang W, Peng D, Chiba A, Lagendijk AK, Barske L, Crump JG, Stainier DYR, Lendahl U, Koltowska K, Hogan BM, ukuhara S, Mochizuki N, Betsholtz C.
- Development. 2019 Jan 25;146(2). pii: dev165589.
Profile著者プロフィール
Ando Koji
2014年東北大学大学院薬学研究科博士課程修了。2014年からのポスドク期間 (国立循環器病センター研究所 望月直樹部長・福原茂朋室長(当時)およびUppsala大学 Christer Betsholtz教授研究室)を経て、2019年より日本医科大学先端医学研究所 (福原茂朋教授) 講師。研究室URL:http://www.nmsbyoutai.com/
E-mail:koji-ando☆nms.ac.jp(☆を@に変更してご使用ください)
論文サマリー
血管壁細胞 (Mural cells; MC)は血管の安定性と機能に不可欠です。しかし、MCの発生を制御する分子メカニズム、特に前駆細胞からMCへのspecificationを制御するメカニズムは十分に理解されていませんでした。そこで、MCの発生過程を簡便に生きたまま観察できるトランスジェニックレポーターゼブラフィッシュを用いることにより、MCのspecificationを制御する分子機構を明らかにしようと試みました。
最初に、pdgfrbと最近脳血管でペリサイトマ-カーとして同定したabcc9のレポーターを使用してMCの発生過程を観察しました。その結果、動脈周囲のpdgfrb弱陽性の間葉系細胞にてpdgfrbの発現が上昇するとともにabcc9の発現が誘導され、このpdgfrb強陽性細胞のみが活発に増殖・遊走することで内皮細胞を被覆し、MCとしての性質を獲得していることが分かりました。このpdgfrb強陽性のMC (pdgfrbhigh MC)が出現するタイミングでγ-secretase阻害薬を処理するとMCの出現が抑制されたことから、動脈周囲のpdgfrbhigh MCの出現には、Notchシグナルが必須であることが推察されました。一方、マウスやin vitroの実験系ではTGFβ が血管壁細胞への分化に寄与することが報告されていますが、少なくともゼブラフィシュではTGFβシグナルは発生初期の脳および体幹部の血管壁細胞への分化に必須ではありませんでした。従って、Notchシグナルに着目し解析を続けると、notch2またはnotch3単独の発現抑制では壁細胞の出現を完全には阻止しませんでしたが、両方の機能抑制により完全にMCの出現が阻害されることが分かり、MCへのspecificationではnotch2とnotch3がredundantに機能していることが分かりました。MCは中胚葉および神経堤に由来しますが、由来によらずnotch2/notch3がMCの発生に必須であることが分かりました。しかし、脳のMCではnotch3が、体幹部のMCではnotch2がそれぞれ優位に機能しており、発生の初期から部位によりMCの性質が異なることが示唆されました。
更に、notchの活性をnotchシグナル伝達およびnotch2受容体切断を読み取るレポーターを使用して経時観察しました。その結果、notch活性が認められたpdgfrb陽性細胞は、pdgfrbの発現を上昇させるとともに内皮細胞に沿って突起を伸ばし内皮細胞と密にコンタクトをとる様子が観察される一方で、notch活性化を伴わないpdgfrb陽性細胞はこのような挙動を示さず、そして徐々にpdgfrbの発現を減少させる様子が観察されました。これらの結果から、(動脈)内皮細胞周囲の間葉系細胞においてnotch2/3シグナルが活性化され、MCへのspecificationが誘導されることが分かりました (モデル図)。
著者コメント
本研究はChrister Betsholtz研究室へ留学する直前から、国立循環器病センター研究所の望月直樹部長(当時)の研究室にて開始した研究です。日本医科大学の福原茂朋教授には国循在籍時からご指導を頂き、また共著者の先生方や周りの方に助けて頂いたお陰で、論文を発表することが出来ました。2016年に初めてゼブラフィッシュを用いて壁細胞動態をライブで観察した論文をDevelopmentに報告して以来、ゼブラフィッシュを用いた壁細胞研究のtoolやbaseが整ってきました。現在では、全ての血管壁細胞を観察できるラインやペリサイトまたは血管平滑筋細胞特異的なレポーターラインなどが揃っています。基本的な壁細胞の挙動や遺伝子発現パターン、機能も保存されているようで、壁細胞研究に対してゼブラフィッシュが有用なモデルの一つであると言えます。今後もゼブラフィッシュの利点を活かした壁細胞研究を推進して行きたいと思っています。現在、大学院生を募集中しています。興味を持たれた方はいつでも連絡をお待ちしております。
活用したデータベースにかかわるキーワード
Mural cell
Notch
Development