学会員論文紹介

近著論文の解説

TAK1は血管内皮細胞を細胞死から守り血管の恒常性を維持する


内藤尚道・射場智大・高倉伸幸
大阪大学微生物病研究所

対象論文

  • TAK1 Prevents Endothelial Apoptosis and Maintains Vascular Integrity.

  • Naito H, Iba T, Wakabayashi T, Tai-Nagara I, Suehiro JI, Jia W, Eino D, Sakimoto S, Muramatsu F, Kidoya H, Sakurai H, Satoh T, Akira S, Kubota Y, Takakura N.

  • Developmental Cell. 2019 Jan 28;48(2):151-166.e7.

Profile著者プロフィール

内藤 尚道
Hisamichi Naito

大阪大学微生物病研究所 助教

E-mail:naitohi☆biken.osaka-u.ac.jp(☆を@に変更してご使用ください)

射場 智大
Tomohiro IBA

大阪大学 医学系研究科 特別研究員(DC1)

E-mail:iba0523☆biken.osaka-u.ac.jp(☆を@に変更してご使用ください)

高倉 伸幸
Nobuyuki Takakura

大阪大学微生物病研究所 教授
研究室URL:http://st.biken.osaka-u.ac.jp/

E-mail:ntakaku☆biken.osaka-u.ac.jp(☆を@に変更してご使用ください)

論文サマリー

血管内皮細胞は組織と血液の間の物質交換を担い、組織の恒常性維持に貢献している。また炎症反応の制御に内皮細胞は深く関与し、炎症が生じると、内皮細胞は活性化し接着因子を発現して、炎症性細胞が組織に遊走するための足場となる。炎症性サイトカインTNFαは、内皮細胞を活性化することが知られ、TNFR1受容体に結合し、NF-κBを介して炎症反応を引き起こす。TNFαは細胞に対して、「生」と「死」という、相反する作用を示す因子として知られている。炎症下でのTNFαによる内皮細胞の活性化は、組織の恒常性を保つための正常な炎症反応の惹起に必要であり、そのメカニズムは詳細に調べられている。一方で、なぜ細胞死が誘導されないかは不明であった。私たちは成体の血管内皮細胞ではTGFβ activated kinase 1TAK1、MAP3K7)が恒常的に発現していることを明らかにし、血管内皮細胞特異的レポーターマウスを用いてTAK1の機能解析を行い、TNFαによって内皮細胞死が誘導されないためにはTAK1が必須であることを明らかにして報告した。

成体の内皮細胞でTAK1蛋白の機能解析を行うため、VE-cadherin(BAC)-CreERT2マウスとTAK1floxマウスを掛け合わせ、タモキシフェン(Tam)誘導型の血管内皮細胞特異的TAK1ノックアウトマウス(TAK1-ECKOマウス)を作製した。成体のTAK1-ECKOマウスに対してTamを投与すると、本マウスはTam投与開始後11日以内に消化管出血と肝出血が生じ、下血をきたし、著明な貧血を伴い、全例死亡する。興味深いことに本マウスは、腸管と肝臓以外では明らかな血管異常や出血を認めなかった。免疫染色を行うと、腸粘膜と肝臓の血管密度は減少し、血管内皮細胞はカスパーゼ陽性となり、アポトーシスを起こしていた。内皮細胞培養系を用いて、TAK1欠損時に内皮細胞にアポトーシスを誘導する因子を探索すると、TNFαが原因であることがわかった。そこで全身の組織でTNFαの発現を調べたところ、腸管でのみ恒常的にTNFαが発現していた。腸管のTNFαは腸内細菌により誘導されることが報告されている。実際にTAK1-ECKOマウスに抗生剤を投与して腸内細菌を除菌すると、TNFα産生細胞が減少して、腸管の血管崩壊と内皮細胞死の軽減を認めた。興味深いことに腸内細菌を除菌すると肝臓の血管崩壊も軽減した。血管内皮細胞のTAK1は腸内細菌から血管を守るために必須である事がわかる。腸内細菌と宿主が共生する為の仕組みと捉えることもできる(図1)。

TAK1は腸管と肝臓だけでなく、全身の血管内皮細胞で発現を認める。そこで実験モデルを用いて炎症反応を誘導すると、TAK1-ECKOマウスは炎症が生じた組織で、内皮細胞死が生じ、血管が崩壊して出血を認めた。この結果から、炎症反応によりTNFα生じた際に、内皮細胞が細胞死を起こさない為にTAK1が必要である事がわかる。

TAK1による内皮細胞死の防御機構は、腫瘍の血管阻害療法に応用できる可能性がある。腫瘍内は炎症反応が常に生じ、TNFαが産生されている。腫瘍血管内皮細胞のTAK1を阻害すると、予想通り内皮細胞死が生じ、腫瘍血管の崩壊と腫瘍の縮小を認めた。炎症反応を利用して抗腫瘍効果を得るとの概念は、19世紀後半から提唱されている。その後、炎症を誘導する因子としてTNFαが同定され、TNFαを用いた臨床研究も行われたが、強い副作用を認めるため現在では一部の肉腫に対する治療以外では使用されていない。血管内皮細胞のTAK1を阻害すると、非常に低い濃度のTNFαで血管内皮細胞死が誘導され、抗腫瘍効果を認めることから、TNFα-TNFR1-TAK1シグナル経路を治療標的とすることで、既存のVEGF-VEGFR経路に依存しない、新たな腫瘍血管阻害療法の開発につながる事が期待される。

著者コメント

本研究は高倉伸幸教授のご指導のもと、大阪大学免疫学フロンティア研究センター自然免疫学分野の佐藤先生と審良先生、慶應大学医学部解剖学教室の田井先生と久保田先生、杏林大学医学部薬理学教室の末弘先生と櫻井先生に御助力頂き、私が所属する微生物病研究所情報伝達分野の沢山の同僚に多大な協力をして頂き、論文発表することができました。皆様に心よりお礼申し上げます。血管内皮細胞の多様性と血管の維持と修復機構の解明を目指して、より一層真摯に血管研究に取り組む所存です。

活用したデータベースにかかわるキーワード

血管内皮細胞
炎症
アポトーシス

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