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近著論文の解説

血管の恒常性維持および再生に貢献するCD157 陽性血管内皮幹細胞の同定


若林 卓・内藤尚道・高倉伸幸

(大阪大学微生物病研究所 情報伝達分野)

対象論文

  • CD157 Marks Tissue-Resident Endothelial Stem Cells with Homeostatic and Regenerative Properties.

  • Wakabayashi T, Naito H, Suehiro JI, Lin Y, Kawaji H, Iba T, Kouno T, Ishikawa-Kato S, Furuno M, Takara K, Muramatsu F, Weizhen J, Kidoya H, Ishihara K, Hayashizaki Y, Nishida K, Yoder MC, Takakura N.

  • Cell Stem Cell. 2018

Profile著者プロフィール

若林 卓
Taku Wakabayashi

略歴:2014年 大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了、2017年より同助教
研究テーマ:血管の形成の機構。
抱負:虚血性疾患に対する新たな治療法の開発をめざして研究を進めたい

内藤 尚道
Hisamichi Naito

大阪大学微生物病研究所 助教

E-mail:naitohi☆biken.osaka-u.ac.jp(☆を@に変更してご使用ください)

高倉 伸幸
Nobuyuki Takakura

大阪大学微生物病研究所 教授
研究室URL:http://st.biken.osaka-u.ac.jp/

E-mail:ntakaku☆biken.osaka-u.ac.jp(☆を@に変更してご使用ください)

論文サマリー

 血管は、血液を運搬するだけでなく、様々な生理活性物質を分泌し、組織や臓器の恒常性を維持している。血管は内腔を覆う血管内皮細胞と、その周囲を取り囲む壁細胞から構成されている。血管内皮細胞は、成体においては多くが休止期にあり、まれにしか分裂しないものの、虚血に陥り低酸素状態となった組織では血管新生促進因子により、血管の修復および再生(血管新生)が誘導される。組織には障害された際に、自身を再生する組織常在型の幹細胞が存在することが知られているが、血管に幹細胞が存在するか不明であった。そこで、筆者らは血管の再生および維持において中心的な役割を果たす幹細胞が血管内皮細胞の中に存在する可能性があるという仮説を立て、血管内皮幹細胞を探索する研究を行った。
 これまでに筆者らは、既存の血管の中にわずかに存在するHoechst33342 染色陰性の特殊な血管内皮細胞集団(血管内皮SP 細胞)が多数の血管内皮細胞を産生する能力を有することを報告してきた。この細胞は、低酸素刺激で増殖活性が増加し、機能的血管を構築することから、血管新生に中心的な役割を果たす幹細胞の特徴を有していた。
 そこで、血管内皮SP 細胞を肝臓から分離し、網羅的遺伝子発現解析によって、血管内皮SP 細胞に特異的に発現する遺伝子としてCD157 を同定した。マウスでは、CD157 を発現する内皮細胞は全身の太い血管に存在し、肝臓においては主に門脈とその太い分枝に存在していた。CD157 陽性内皮細胞の潜在的増殖活性を検討するため、肝臓からCD157 陽性内皮細胞を分離し培養した。その結果、多数の血管内皮細胞コロニーを形成し、1 個の細胞から2000個以上の内皮細胞が形成される場合も認めた。肝臓の血管障害モデルを用いて内皮細胞移植を行うと、1個のCD157 陽性内皮細胞から門脈、類洞血管、中心静脈からなる3 次元的な血管が再生された。血管を再解析したところ、CD157 陽性内皮細胞から、500 個以上の血管内皮細胞が産生されていることがわかった。再生された内皮細胞はCD157 陽性とCD157 陰性に分けられ、内皮細胞にヒエラルキーが存在することが示唆された。CD157 陽性内皮細胞の細胞系譜追跡を肝臓で行ったところ、血管障害モデルではCD157 陽性内皮細胞から新生血管が生じ、3 週間後には、大部分の門脈、類洞血管、中心静脈がこの新生血管によって修復されていた。更に、生理的な条件下では、CD157 陽性内皮細胞から新たな内皮細胞が供給され、1 年以上の長期にわたって内皮細胞の恒常性維持に貢献していた。以上の結果から、CD157 陽性血管内皮細胞は、多数の血管を産生し血管再生に中心的な役割を果たす血管内皮幹細胞の特徴を有することが判明した。
 本研究における血管内皮幹細胞の同定は、血管形成や血管の維持機構を理解する上で新たな概念を提示し、血管生物学の研究の発展に貢献できることを期待している。更には、虚血性疾患をはじめ多くの疾患に対する新たな治療法の開発につながる可能性が期待される。
 CD157 のノックアウトマウスは血管異常をきたすことがないことから、血管内皮幹細胞の血管再生能はCD157 以外の分子に依存していると推測している。これらの分子機序を探索することにより、血管内皮幹細胞システムの全容を解明したいと考えている。

著者コメント

本研究は、大阪大学微生物病研究所情報伝達分野の高倉伸幸教授、内藤尚道助教のご指導のもと私が2010 年に大学院に入学した時から続けてきた内容です。Side population 法(幹細胞同定法)(Naito H. EMBO J 2012)を用いて、血管内皮細胞の網羅的遺伝子解析を行い、内藤先生と一つ一つの分子を絞り込み、CD157 陽性の血管内皮幹細胞を発見することができました。本研究では、網羅的遺伝子解析や遺伝子改変マウスご供与など多くの先生方に大変お世話になりました。高倉教授には一貫して貴重なご指導をいただきました。皆様方に心より御礼を申し上げます。今後の研究をさらに発展させられるよう努力してまいります所存です。

活用したデータベースにかかわるキーワード

血管内皮細胞
幹細胞
CD157

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